従業員の罪で会社も罰金?両罰規定の適用要件と免責の分かれ道【2026】
現場社員が独断で行った法令違反によって、突如として企業本体が警察の捜査を受け、刑事罰を科される事態がビジネスの現場で相次いでいます。「現場が勝手にやった」「会社は指示していない」という釈明は、法廷では通用しません。違反行為に手を染めた本人だけでなく、所属する法人にも罰金刑などを科す法的な仕組み、それが「両罰規定」です。
コンプライアンスの厳格化が進む2026年のビジネス環境において、法人処罰は企業の財政面のみならず、上場維持や取引停止、社会的信用の失墜に直結する最大級の経営リスクです。なぜ直接指示を出していない企業まで罪に問われるのか、どのような条件を満たせば免責が認められるのか、実務上押さえておくべき核心を解説します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:両罰規定とは、従業員が業務に関して違反行為を行った際、実行者本人と企業(法人)の双方を同時に処罰する法制度。
- 要点2:法人は「無過失」でも自動的に処罰されるわけではないが、「過失推定」により企業側が無過失・相当の監督を立証しない限り罰金刑を免れない。
- 要点3:著作権法や個人情報保護法など法人罰金の上限が数億円に達する法律が増加しており、形式的な研修ではなく実効性のある監督体制が必須。
【基本構造】両罰規定とは?法人処罰が下される仕組みをわかりやすく解説
本来、日本の刑法における大原則は「責任主義(自分の行為についてのみ責任を負う)」であり、犯罪を行った生身の人間(自然人)が処罰の対象です。しかし、事業活動の現場では、個人が会社の利益を図る目的で不正を働くケースが少なくありません。個人の処罰だけで終わらせては、企業が不正による利益を享受し続け、再発防止の実効性が上がらないため、特別に設けられているのが両罰規定(りょうばつきてい)です。
両罰規定が適用されるための構成要件は、主に以下の3点に集約されます。
第1に、行為主体が「法人の代表者、代理人、使用人その他の従業者」であることです。役員や正社員だけでなく、契約社員、派遣社員、パート・アルバイトであっても、企業の指揮監督下で業務を行う者であれば広く対象に含まれます。
第2に、その行為が「法人の業務に関して」行われたこと(業務関連性)です。従業員が完全な私生活で行った個人的な犯罪は含まれませんが、業務の遂行に関連して、あるいは企業の利益を図る意図で行われた違反行為であれば、たとえ社内規定で禁止されていた行為であっても業務関連性が認定されます。
第3に、個別の法律において「両罰規定」の条文が明記されていることです。刑法本体には両罰規定は原則として存在しませんが、労働安全衛生法、著作権法、個人情報保護法、不正競争防止法、金融商品取引法など、企業活動を規制する数多くの特別法・行政刑法にこの規定が組み込まれています。
過失がなくても罰金?「過失推定」の真相と会社が免責される決定的な条件
ネット上やビジネス関係者の間で「従業員が捕まったら、会社に落ち度がなくても絶対に罰金刑を受ける」という噂が語られることがあります。しかし、法律上の厳密な立て付けとしては、完全な結果責任(無過失責任)ではありません。最高裁判所の判例(昭和40年3月26日大法廷判決など)において、両罰規定の根拠は「事業主が従業員に対する選任・監督を怠ったという事業主自身の過失責任」にあると判示されています。
では、なぜ「過失がなくても処罰される」と言われてしまうのか。その理由は、実務上採用されている「過失の推定」という仕組みにあります。
通常の刑事裁判では、検察側が被告人の故意や過失を証明しなければ有罪にはできません。ところが両罰規定が適用される事案では、従業員が業務に関して違反行為を行った事実が立証された時点で、「企業側にも監督上の過失があった」と事実上推定されます。つまり、処罰を免れるためには、企業側が「業務に関して相当の注意および監督を尽くしていたこと」を自ら立証(挙証)しなければならないのです。
この免責要件を法廷で証明するハードルは極めて高いのが現実です。過去の裁判例を見ても、「社内マニュアルを配っていた」「年に1回コンプライアンスの標語を周知していた」程度の形式的な対策では、監督義務を果たしたとは認められません。業務プロセスの構造的なチェック機能、定期的な実態監査、違反を発見した際のエスカレーション体制など、実効性のある防止措置が日常的に機能していたことを具体証拠で示せなければ、免責を勝ち取ることは困難です。
【法律別】罰金の上限とリスク|著作権法・個人情報保護法・労働安全衛生法のインパクト
両罰規定において特に注意すべき点は、「個人への罰金額」と「法人への罰金額」に巨大な格差が設けられている点です。個人の経済力に合わせた罰金では大企業への抑止力にならないため、各法令の改正を通じて法人に対する罰金の上限は跳ね上がっています。
① 著作権法(法人への罰金:最高3億円)
従業員が社内で使用する業務ツールやデザイン、フォント、プログラムなどを違法コピー・海賊版で運用していた場合、実行した個人には「10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金」が科されますが、法人に対しては最大3億円の罰金刑が科されます。
② 個人情報保護法(法人への罰金:最高1億円)
企業の保有する個人情報データベース等を従業員が不正に抜き出し、名簿業者へ売却するなどの不正提供を行った場合、実行者への処罰に加え、法人には最高1億円の罰金が科されます。デジタル資産の漏洩はプライバシー保護の観点から年々量刑が厳罰化されています。
③ 労働安全衛生法(法人への罰金:最高500万円+重大な営業停止リスク)
工場や建設現場などで、安全基準を満たさない設備を稼働させたり、労災事故の隠蔽(労災かくし)を行ったりした場合に適用されます。罰金の上限額自体は50万円〜500万円規模ですが、労働安全衛生法違反による法人送検は、公共事業の指名停止や取引先からの契約解除など、事業継続を直接揺るがす甚大なペナルティを伴います。
現場のリアル|従業員の不祥事で会社責任が問われた代表的な適用事例
実際に両罰規定が適用され、法人処罰に至ったケースは多岐にわたります。典型的な事例から、どのような状況で企業の管理責任が断罪されるのかを確認しておきましょう。
【事例1:CADソフト違法コピー事件(著作権法違反)】
設計事務所の従業員が、コスト削減と納期短縮のために高額なCADソフトウェアを複数台のPCに無断複製して使用。経営陣は直接指示していなかったものの、「ライセンス管理を現場任せにし、定期的なPC内のソフトウェア監査を実施していなかった」として、実行者と共に会社にも数千万円規模の罰金刑が下されました。
【事例2:建設現場の足場崩落事故と安全軽視(労働安全衛生法違反)】
下請け業者の現場責任者が、工期遅延を防ぐために必要な安全点検を省略し、作業員が死傷する事故が発生。元請・下請双方において安全管理マニュアルは存在していたものの、形骸化しており形だけのチェックシート運用となっていたため、両社の法人が両罰規定に基づき略式起訴・罰金刑を受けました。
【事例3:退職者による競合への顧客リスト持ち出し(不正競争防止法違反)】
営業責任者が競合他社への転職にあたり、自社の営業秘密・顧客データを不正に複製して持ち出し。転職先の企業がその情報を業務で利用したことで、実行者個人だけでなく転職先の法人に対しても両罰規定が適用され、億単位の損害賠償請求と刑事罰が並行して進む事態となりました。
【2026年最新】法改正トレンドと企業が取るべき「実質的監督義務」の防衛策
2026年現在の法執行トレンドにおいて、捜査機関および裁判所は「形だけのコンプライアンス体制」を厳格にスクリーニングする姿勢を強めています。デジタル化やリモートワークの定着により、従業員の手元での不正が見えにくくなっているからこそ、企業側に求められる監督義務の質が根本から変化しています。
企業が両罰規定のリスクを遮断し、万一の際にも免責を立証できるようにするためには、次の3つの防衛策を実務に落とし込むことが不可欠です。
1. 「ログ監査」と「権限最小化」のシステム的統制
従業員の良心や口頭指導に頼る管理は終焉を迎えました。機密情報や顧客データへのアクセス権限を最小限に制限し、不自然な大量ダウンロードや外部ストレージ接続を自動検知して遮断する技術的セーフガードを整備することが、過失を否定するための強力な証拠となります。
2. 実態に即した教育記録とテスト履歴の保管
単にマニュアルをイントラネットに掲載するだけでなく、定期的な研修の受講ログ、理解度テストのスコア、受講誓約書の回収をデジタルで一元管理します。「会社として法令遵守を徹底的に求めていた」客観的ログを残すことが防御の第一歩です。
3. 内部通報制度の外部窓口設置と実効性の担保
現場の不正が放置された原因として「上司に言えない環境」が指摘されるケースが大半です。利害関係のない外部弁護士を通報窓口とし、通報者保護を徹底した運用実績を作っておくことが、組織ぐるみの過失を否定する重要なファクターになります。
【両罰規定】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:アルバイトや業務委託先が起こした違反でも、会社は処罰されますか?
A1:処罰される可能性が十分にあります。両罰規定における「従業者」には、雇用形態(正社員・契約・アルバイト・パート)の区別はありません。また、業務委託であっても、委託元の実質的な指揮命令下で業務を行っていたと認められる場合は、「法人の代理人・使用人」とみなされ、委託元企業に両罰規定が及ぶリスクがあります。
Q2:就業規則に「法令違反の禁止」を明記していれば免責されますか?
A2:就業規則の条文だけでは免責されません。裁判では「規定が存在すること」ではなく「その規定を守らせるための日常的な指導・監督・監査体制が存在したか」が問われます。形式的な禁止規定があっても、現場のノルマ設定が厳しく不正を行わざるを得ない環境であった場合などは、過失ありと判断されます。
Q3:両罰規定で会社に前科がつくと、具体的にどんな不利益がありますか?
A3:罰金刑であっても法人の「前科」となります。官公庁の入札参加資格の剥奪(指名停止)、許認可事業(建設業・派遣業・金融業など)の営業停止や取消処分、上場企業であれば適時開示義務や株価下落、ESG投資からの除外、取引先からの契約解除など、事業継続に致命的な影響を及ぼします。
まとめ:形骸化した対策を脱し、有事にも耐えうるコンプライアンス経営へ
両罰規定は、従業員の不祥事を「個人の問題」で終わらせず、企業のガバナンスそのものを厳しく裁くための法制度です。過失が推定される法的構造がある以上、問題が発生した後に「知らなかった」と釈明しても手遅れとなります。
リスクを未然に防ぎ、万一の有事にも法人の免責を勝ち取るためには、形式的なスローガンを脱し、システム監査や通報体制を含めた実効性ある予防措置を日常業務に組み込んでおくことが何よりの防御策です。日頃の管理体制をいま一度総点検し、強固な防衛線を敷いておく必要があります。 (出典: 両 罰 規定(Yahoo!ニュース))