枕草子『宮に初めて参りたるころ』品詞分解と敬語・助動詞徹底解説
高校の古典の教科書や共通テスト・二次試験で圧倒的な出題率を誇る『枕草子』の有名章段「宮に初めて参りたるころ」。才気煥発な宮廷作家として知られる清少納言が、主君である中宮定子のもとへ初めて出仕した際の、初々しい緊張と感動をみずみずしく描いた名文です。
しかし、実際のテスト対策や読解においては、助動詞の識別や敬語の種類・方向、省略された主語の特定など、受験生をつまずかせるトラップが随所に仕掛けられています。本稿では、冒頭から山場までの詳細な品詞分解をはじめ、助動詞の活用表、敬語の識別、定期テスト頻出の予想問題まで、得点力に直結するポイントをプロの視点から余すところなく解説します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:冒頭「宮に初めて参りたるころ」の助動詞「たる」は存続・完了を表し、「参り」は清少納言から中宮定子への謙譲語である。
- 要点2:最頻出の「見せさせたまふ」は「使役」ではなく「最高敬語(二重尊敬)」であり、中宮定子への強い敬意を示す。
- 要点3:接続助詞「て・で」と「に・を・ば・ど」の主語切り替えルールを押さえることで、清少納言と中宮定子の動作を迷わず正確に判別できる。
【あらすじと背景】清少納言と中宮定子の出会いを3分でおさらい
『枕草子』を執筆した清少納言は、一条天皇の皇后である中宮定子(藤原定子)に仕えた女房です。才女として堂々と宮廷を渡り歩いていたイメージを持たれがちですが、出仕した当初は極度の緊張と恥ずかしさから、人前に顔を出すことすらままならない状態でした。
章段「宮に初めて参りたるころ」のあらすじは、そんな清少納言が夜遅くに恐る恐る定子の御前へ伺候し、灯火の光に照らし出された定子の神々しいまでの美しさに圧倒される場面を描いています。定子は怯える清少納言をリラックスさせようと自ら絵巻物を取り出して見せてくれますが、清少納言は自らの不慣れさと定子の気品との落差に打ちのめされ、涙がこぼれそうになります。
この章段の魅力は、宮廷の華やかさそのものよりも、新参者の女房が抱く「生々しい劣等感と憧れ」にあります。時代背景として、当時の貴族社会では女性が男性や身分の高い人物に直接顔を見せることは極めて恥ずべきこととされていたため、清少納言が感じたパニック状態の心理描写がリアルに迫ってきます。
【冒頭〜前半の品詞分解】「宮に初めて参りたるころ」の単語・文法徹底解剖
テストや入試で最も出題される冒頭から重要場面にかけての品詞分解を、単語ごとに細かく区切って解説します。
冒頭部:出仕当時の極度の緊張
【本文】
宮に初めて参りたるころ、恥づかしきことの限りにて、出で向かひたるに、
【品詞分解】
・宮(名詞):中宮定子の御所・中宮定子
・に(格助詞):場所・対象を示す「〜に」
・初めて(副詞):初めて
・参り(動詞・ラ行四段活用「参る」連用形):謙譲語「参上する・お仕えする」
・たる(助動詞・完了存続「たり」連体形):存続「〜ている」または完了「〜た」
・ころ(名詞):ころ
・恥づかしき(形容詞・シク活用「恥づかし」連体形):気が引ける・恥ずかしい
・こと(名詞):こと
・の(格助詞):連体修飾格「〜の」
・限り(名詞):限度・極限(「限りにて」で「この上もなく」の意)
・にて(格助詞):状態・原因を示す「〜で」
・出で向かひ(動詞・ハ行四段活用「出で向かふ」連用形):前に出る・お目にかかる
・たる(助動詞・完了存続「たり」連体形):存続「〜ている」
・に(接続助詞):単純接続・確定条件「〜ところ」
中盤部:中宮定子の優しいもてなし
【本文】
夜さり参りて、御格子参りて、絵など取り出でて見せさせたまふにも、手も出づつまじう、
【品詞分解】
・夜さり(名詞):夜になるころ
・参り(動詞・ラ行四段活用「参る」連用形):謙譲語「参上する」
・て(接続助詞):順接の接続「〜て」
・御格子(名詞):格子(窓や建具の敬称)
・参り(動詞・ラ行四段活用「参る」連用形):敬意を伴う動作「(格子を)お下ろし申し上げて」
・て(接続助詞):順接の接続「〜て」
・絵(名詞):絵巻物
・など(副助詞):例示「〜など」
・取り出で(動詞・ダ行下二段活用「取り出づ」連用形):取り出して
・て(接続助詞):順接の接続「〜て」
・見せ(動詞・サ行下二段活用「見す」連用形):見せる
・させ(助動詞・尊敬「さす」連用形):最高敬語の一部(尊敬)
・たまふ(助動詞・尊敬の補助動詞「たまふ」連体形):尊敬「〜なさる」
・に(格助詞):対象・状況「〜につけても」
・も(係助詞):強調「〜も」
・手(名詞):手
・も(係助詞):強調「〜も」
・出づ(動詞・ダ行下二段活用「出づ」終止形):出る(※助動詞「まじ」に接続)
・つまじう(助動詞・打消推量「まじ」連用形「まじく」のウ音便):不可能・打消意志「〜出せそうもなく」
【重要文法の真相】頻出の「助動詞」意味・活用形と見分け方
本章段で点差がつく最大の要因は、複数の意味を持つ助動詞の正確な識別です。特に頻出する助動詞の活用形と文脈上の意味を一覧化して整理しておきましょう。
助動詞「たり」「さす」「まじ」「けり」の識別整理:
1. 助動詞「たり」
・接続:連用形接続
・本文例:「参りたるころ」「出で向かひたるに」
・活用形:連体形
・意味:存続(〜ている)または完了(〜た)。直後に体言(名詞)や格助詞が続くため連体形となっています。
2. 助動詞「さす」
・接続:未然形接続(四段・ラ変・ナ変以外の動詞未然形に接続)
・本文例:「見せさせたまふ」
・活用形:連用形
・意味:尊敬。ここでの「させ」は使役(〜させる)ではなく、直後の尊敬語「たまふ」と合体した「最高敬語」です。中宮定子の身分が極めて高いことを示します。
3. 助動詞「まじ」
・接続:終止形接続(ラ変型は連体形接続)
・本文例:「出づつまじう」(出づ+まじう)
・活用形:連用形(ウ音便化:まじく → まじう)
・意味:不可能(〜できそうもない)または打消推量。清少納言があまりの緊張から「手袋や袖から手を外に出すことすらできない」心理を表しています。
4. 助動詞「けり」
・接続:連用形接続
・本文例:「思ひ知られにけり」
・活用形:終止形
・意味:詠嘆(〜だなあ、〜ことよ)または過去。回想の中で「自分の身の程知らずを痛感させられたことだなあ」と深く納得するニュアンスです。
【敬語と主語の特定】「参る」「見せさせたまふ」の敬意の方向を完全整理
古文読解で配点が高い「敬意の方向」と「主語の判定」は、ルールさえ掴めば確実に満点を狙えます。
敬語の3要素と敬意の方向:
・「参る(まゐる)」:謙譲語(本動詞)
動作の主体(主語):清少納言
敬意の対象(客体):中宮定子(および定子の御前)
意味:「参上する」
・「御格子参る」:謙譲表現(慣用表現)
動作の主体(主語):清少納言(または周囲の女房)
敬意の対象:中宮定子
意味:「格子をお下ろし申し上げる」
・「見せさせたまふ」:最高敬語(二重尊敬:尊敬の助動詞「さす」+尊敬の補助動詞「たまふ」)
動作の主体(主語):中宮定子
敬意の方向:筆者(清少納言)から中宮定子への敬意
意味:「お見せになる」
主語の入れ替わりを見抜く鉄則として、接続助詞の性質を頭に叩き込みましょう。「て」「して」「で」の前後は基本的に主語が同じ(主語不変)です。一方で、「に」「を」「ば」「ど」の前後は主語が切り替わりやすい(主語変化)という性質があります。
例えば、「絵など取り出でて見せさせたまふにも(定子が主語)、手も出づつまじう(清少納言が主語)」のように、「にも」の前後で主語が定子から清少納言へと鮮やかにスイッチしています。
【全文現代語訳と読解】清少納言の心理描写と中宮定子の圧倒的な美しさ
現代語訳を通じて、章段全体のストーリーと情感を把握しておきましょう。単なる逐語訳ではなく、当時の清少納言の心情が伝わる自然な訳文です。
【現代語訳】
中宮(定子)様の御前に初めて参上したころ、気恥ずかしいことこの上なく、お前に進み出たところ、とんでもなく美しく、あでやかで、すばらしいものを見せてやろうということで、(定子様が自ら)絵などを取り出してお見せになるのにつけても、私は緊張のあまり手さえ袖から出せそうにもない。
「これは、誰それの(描いたものだ)。あちらにあるのは、誰それの(描いた絵だ)」などとお話しになるのも、灯火の光がすぐ近くで、御簾のすき間から差し込んでくるので、私の髪のかかり具合から何からすべてが丸見えになってしまっているのではないかとお恥ずかしく、もったいなく、つらいとさえ思われる。
冷え冷えとする夜の寒さに震えていると、(定子様は)「(寒いのなら)もっと近くに寄りなさい」と仰せになる。その定子様のお姿は、頭の形や髪のかかり具合など、すべて言葉では言い尽くせないほど高貴で、あでやかで、雪のように白く美しくていらっしゃる。これほど素晴らしい方がこの世にいらっしゃったのかと、ただただ圧倒されるばかりであった。
【読解のポイント】
清少納言は中宮定子の気遣い(絵を見せて緊張をほぐそうとする、近くに呼んで温めようとする)を感じつつも、定子の圧倒的な美しさと自らの田舎臭い身なりを対比させ、「恥づかし、あたらし、つらし」と三拍子揃った感情を抱いています。「つらし」は現代の「つらい」というより、「定子様の完璧な美しさに比べて自分がみじめで嫌になる」という内省的な苦しさを意味します。
【テスト対策・予想問題】定期テストや大学入試で絶対に出る3つの設問
定期テストや模試で頻繁に出題されるパターンを3つ厳選しました。試験直前の総仕上げとして必ず確認してください。
【予想問題1:語句の意味】
問:傍線部「恥づかしきことの限りにて」の「恥づかし」の意味として最も適切なものを答えよ。
解答・解説:「(相手が立派すぎて)気が引ける、気後れする」。現代語の「恥ずかしい」だけでなく、「相手の素晴らしさに圧倒されて引け目を感じる」という古語特有のニュアンスを記述させる問題が定番です。
【予想問題2:敬語の識別】
問:傍線部「見せさせたまふ」における「させ」の助動詞の種類と、「たまふ」の敬語の種類、および誰から誰への敬意かを答えよ。
解答・解説:
・「させ」:尊敬の助動詞
・「たまふ」:尊敬の補助動詞(合わせて二重尊敬・最高敬語)
・敬意の方向:筆者(清少納言)から中宮定子への敬意
【予想問題3:心情の理由説明】
問:清少納言が「つらきまでぞおぼゆる」と感じたのはなぜか。その理由を40字以内で説明せよ。
解答・解説:「中宮定子の高貴で完璧な美しさに対し、不慣れでみじめな自分の姿が浮き彫りになったから。」(39字)
※「定子の美しさ・親切さ」と「自らの至らなさ・不甲斐なさ」の対比を盛り込むのが高得点の条件です。
【宮に初めて参りたるころ 品詞分解】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:「御格子参りて」の「参り」は誰が誰に対して使っている敬語ですか?
A1:格子を下ろす動作を行う人物(清少納言または他の女房)から、その場にいらっしゃる中宮定子への敬意を表す謙譲表現です。「参る」は基本動詞ですが、物を取り扱ったり奉仕したりする動作に付くことで敬意を含んだ表現になります。
Q2:「出づつまじう」の品詞分解で注意すべき活用と音便は?
A2:ダ行下二段動詞「出づ」の終止形に、打消推量・不可能の助動詞「まじ」の連用形「まじく」が接続し、ウ音便化して「まじう」となった形です。「出づ」が連用形ではなく終止形である点(まじは終止形接続)と、ウ音便の元の形(まじく)を問う問題が頻出です。
Q3:なぜ清少納言は中宮定子に優しくされているのに「つらし」と思ったのですか?
A3:定子への恨みではなく、定子の神々しい美しさと温かい配慮に対して、緊張で固まり気の利いた返事もできない自分自身のふがいなさに心が痛んだためです。古典における「つらし」は外的な被害だけでなく、自己へのやるせなさや心苦しさにも用いられます。
まとめ:文法分解と主語把握で古文の得点力を盤石にする
『枕草子』の「宮に初めて参りたるころ」は、清少納言の人間味あふれる内面と中宮定子の気品が見事に交錯する傑作です。品詞分解を機械的な暗記で終わらせるのではなく、助動詞のニュアンスや敬語の方向を手がかりに場面を立体的にイメージすることが、確実な読解力アップへの最短ルートとなります。
特に「最高敬語の見極め」「接続助詞による主語の切り替わり」「古語特有の心情語の意味」の3点は、定期テストはもちろん共通テストや難関私大・国公立二次試験でも繰り返し狙われる最重要スキルです。単語の分解表と現代語訳を何度も照らし合わせ、自信を持って試験本番に臨みましょう。 (出典: 宮 に 初めて 参り たる ころ 品詞 分解(Yahoo!ニュース))